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「パフューム/ある人殺しの物語」 [映画]

「パフューム/ある人殺しの物語」

 恐い映画です。でもそれだけではない映画の演出に魅入りました。

 例によって映画の内容に触れますので、これから見る予定の方は
この先を読まないことをお勧めします。



 主人公ジャンは平たく言えば殺人鬼に違いないのですが、只者では
ありません。

 罪の意識もなく、相手の感情に何の反応もなく次々に殺していく様は
「13日の金曜日」シリーズのジェイソンといい勝負です。

 そして殺しは手段であって目的ではないところが変わっています。
真の目的は別にあり、その目的を遂行するために殺すのです。

 ある意味では純粋無垢で、自分の求める物に向かって突き進む一途な
心を持った主人公です。

 しかし彼のやることは明らかに犯罪。殺した相手の臭いを収集するという
異常なコレクターです。こんな人間が好き勝手に振舞っていたのでは周囲の
人間はたまったものではありません。

 類まれな嗅覚を持って生まれたジャンは自分の使命に目覚め、調香師として
その天才を遺憾なく発揮する訳ですが、それだけで終わらないところが
不幸の始まりです。

 愛を知らずに育ったという背景があり、同情はできないにしても妙に
納得させられてしまいます。ベストセラー小説が原作ですが、時代背景や
人物の描き方が見事です。

 物語では最初から最後まで、ジャンの人生の転機には必ず誰かが死ぬ
というお約束があり不気味です(全部がジャンのせいとは限りませんが)。

 彼を取り巻く人々の不幸をも、決して同情的でなくむしろ突き放した
感じで描くあたりが独特の乾いた雰囲気を出しています。

 ジャンにとっての究極の香水が完成するのと同時に彼は捕らえられ
裁かれます。有罪は明白で、死刑も免れようがありません。

 しかしどんでん返しが待っています。見る者は誰しも、群衆の前で
ジャンが殴打されやがて絞首刑になることを疑わないでしょう。

 ところが。彼の究極の香水を嗅いだ者は皆彼の無罪を信じ、天使が降臨
したとさえ言い出します。これには驚きました。

 究極の香水にそんな得体の知れない力があるとは。しかもその場にいた
群衆は恍惚の表情になりみんなして裸になって愛し合います。

 異常な人間が作った香水で人々が異常な心理状態になる・・・狂気の
大団円で映画は終盤に差し掛かります。

 ジャンは生まれた場所に戻り、そこが同時に死に場所にもなりました。
死刑は免れたにしても、究極の香水を完成させてしまった今となっては
彼には生きる目的は存在しないと言ってもよく、死ぬ覚悟は出来ていたに
違いありません。

 天才と狂気を併せ持つ人間の恐さ。物語の中でだけ存在するのなら
いいのですが、程度の差こそあれこんな人間が実際にいそうで恐いです。

 最初から最後まで観客の興味を引きつけ、はらはらさせたり時には
恐がらせたりする演出が見事でした。

 また、香りという、映画的ではない題材を用いた物語をよくぞここまで
映像化したものだと感心します。

 ひとつだけ疑問に思った箇所がありました。死刑執行人が「彼は無罪だ」
と言った後、ジャンは調子に乗って群衆に香りを振りまいたり、ポーズを
取って群集の興奮を掻き立てたりします。人間らしい心を持たないで育った
ジャンにしてはサービス精神が旺盛すぎはしないかな?と思いました。


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