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「バベル」 [映画]

「バベル」

 アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督作品。2006年カンヌ国際映画祭
最優秀監督賞受賞だけあって、その演出振りが見事でした。

 例によって映画の内容に触れながら書きますので、これから見る予定の方は
この先を読まないことをお勧めします。



 話題性という点ではやはり菊地凛子さん。今年のアカデミー賞で助演女優賞に
ノミネートされ、授賞式会場のレッドカーペットの上を歩きました。惜しくも
受賞は逃しましたが、ノミネートされるだけでも快挙です。

 聾唖の高校生・チエコという難しい役どころですが、しっかりと監督の期待に
応え、なおかつ観客を画面に釘付けにするような存在感を見せてくれました。

 父親への反抗、異性への興味。チエコはそういった面では普通の高校生です。
しかし勝気な性格や聾唖が災いしてか周囲の人間に対して器用に振舞うことが
できません。仲がいいのは同じ境遇の女子高生同士だけです。

 ナンパしてきた若い男はチエコが聾唖者だと分かると引いていきます。
音が聞こえないハンデに加えて、健常者から奇異な目で見られる疎外感。

 異性に興味はあるけれど付き合い方が分からない。相手がいない。そして
時には恋人でもなんでもない男に一方的に肉体関係を迫って相手を驚かせたり
します。その暴走振りを見ていると、いつかは行きずりの相手と本当に関係を
持ってしまうのではないかと思えてきます。

 予想に反してチエコは最後まで男の身体を知らないままでいます。それが
ちょっと救いです。肉体関係があった方が映画としては刺激的ですが、この
映画で描きたいのはむしろ孤独や、言葉で言えないもどかしさでしょう。
求めた相手から拒絶されて落ち込んだ方が心に残ります。

 さて、映画はモロッコ・アメリカ・メキシコ・日本を舞台に、一見何の関係も
なさそうな何組かの家族についてのドラマが展開します。

 ジグソーパズルのピースを埋めていくように挿話が交互に描かれ、最後には
全体が一つのまとまった絵になるような、そんな構成でした。勘の働く人は
かなり早い段階で全体像が見えてくることでしょう。

 鈍いトシは、なんだかつながりそうと漠然と感じてはいましたが、全体像が
分かったのは結構後の方でした。一言で言えば、銃がもたらした悲劇。一発の
銃弾が、世界の何組もの家族に多大な影響を及ぼします。

 主要な登場人物の誰もが、悪意を持って行動した訳ではないのに何らかの
問題を起こし、そのことで人を傷つけたり大きく悩んだりしてしまいます。

 彼らは結果から見れば思慮が足りず、愚かでした。しかし誰にでも身に覚えの
あるような、ちょっとした軽はずみ。まさかこんな大事になるとは・・・と
後悔しても後の祭りです。

 悪人のやらかした事件ではなく、どこにでもいそうな人々の話であるところが
現実感を与えているし、悩みや心の痛みが共感できるものになっています。

 登場した何組かの家族は悲劇を通して改めて家族の絆というものを認識した
ことでしょう。家族たちのその後がどうなるのか、想像してみたくなるような
奥深さがこの映画にはあります。

 世界各地で撮影した映像からはその土地の雰囲気がよく伝わって来ました。
ただ単に現地の映像だから、現地の役者だからという訳ではなくて、国民性や
風俗・習慣の描き方なども含めて監督が意図したものが画面に反映されての
ことだと思います。

 やはり監督の演出力の偉大さを感じます。

 書きたいことはいっぱいありますが、全部書くと相当な長さになってしまう
のでこのぐらいにしておきます。


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