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藪 [トシの生活]

 トシは今、旧住宅公団の古いアパートの1階に住んでいます。

 なぜか建物のすぐ近くに木が生えていて、枝や葉がトシの浴室や台所の窓をいい按配に
覆い隠してくれていました。でもわざわざ目隠しのために植えられたとも思えません。

 生える場所があまりにも不自然です。同じ棟の他の住人の部屋の前、あるいは他の棟には
同じような光景は見られません。トシの部屋の前だけなのです。

 計画的に植えられたのではなく、成り行きで芽が生えたものが長い年月の間に成長して
いったのだと思います。なにせ築40年を超える老アパートですから偶然生えた木が
2階まで届くような高さにまで伸びても不思議なことはありません。

 その木があるおかげで採光性が悪くなるし、邪魔といえば邪魔でした。木だけでなく
背の高い草もいっぱい生えていていて、広い団地の敷地内でそこだけ藪という不思議な
一角を形成していました。。

 夏は生い茂った葉っぱがうっとうしく、またぼうぼうに生えた草が通行の妨げにも
なっていました。トシの部屋に妙に虫がたくさん侵入してくるのも藪があるせいだった
かもしれません。

 トシは去年ここに引っ越して来たのですが多分今まで誰も苦情を言わなくて、そのまま
放置されていたのでしょう。トシもなんとなく目障りだとは感じつつも苦情を言うほどの
ことはないと思っていました。ここに長く住む予定もありませんでしたし。

 不自然に生えている木も伸び放題の草も、あって当たり前の風景になっていました。

 ところが昨日外出から帰ると、木が無くなっていて背の高い草も刈り取られていました。

 藪の目の前に住んでいたトシが苦情を言わなかったくらいですから、住人の苦情に
管理組合が応じたというよりもあまりに見栄えが悪いので見かねて切ってくれたのでしょう。

 なんだか床屋に行った直後のようなすがすがしさを感じました。

 せっかく藪を取り払ってくれたのに言うのもなんですが、採光性が良くなったのと同時に
外から部屋が丸見えになってしまいました。

 トシの住んでいる棟ともう一つの棟の間に公園がありますが、その公園のブランコやベンチが
トシの住む部屋の目と鼻の先です。結局採光性は犠牲にしてもカーテンで中を隠す必要が
あります。

 切り取られた木の根っこはまだそのまま残っていましたので、いずれまた枝が伸びていく
かもしれません。

 木の成長を見届けるほど長く住む予定もないし、老朽化したこの団地が建替えの必要に
迫られるのは近い将来のことだと思うし、藪のことは今となってはどうでもいい話です。
とりあえず、本来あるべき状態になったということで。


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